のりよし 前編
「また『のりよし』が１位か！！」

ネットのニュースによれば、今年も「のりよし」が赤ちゃん名付けランキングの男女ともに１位となったらしい。ここは警視庁の「のりよし増殖事件」の捜査本部で、その捜査員である私はこの手のニュースにはどうしても敏感になってしまう。

「そんなにカッカしちゃだめよ、<ruby>張<rt>チャン</rt></ruby>」

そう私をなだめたのはマチだ。本名は<ruby>真知子<rt>マチコ</rt></ruby>なのだが、私は真知子の事をマチと呼んでいる。マチコのコは子供の子。そんな名前は古臭くて恥ずかしいからという彼女の希望でもある。彼女は淹れてきたコーヒーを私に渡しながら続けた。

「でもまずいわね。最近は捜査の進捗も悪いし・・。」

進捗・・、聞きたくない言葉だ。この言葉を聞くと、否が応でも前職のことを思い出してしまう。

　私の前職は<ruby>消防士<rt>プログラマー</rt></ruby>として数々の炎上案件をこなす毎日だった。会社員やフリーランスをやっていたが、特に会社員時代の労働環境は最悪だった。過労死ラインをゆうに超える労働時間、進捗を出しようもないプロジェクトであるのに毎日の進捗確認、週に4回しか<ruby>GB<rt>ガールズバー</rt></ruby>に行けない薄給。もう限界だった。これ以上続けていたら体を壊してしまうと思い、私は会社を辞めた。ほどなくしてフリーランスを始めたが、会社員時代のつてで仕事をもらったためか、結局は炎上案件に関わってしまった。ついに体を壊してしまった私はフリーランスとして働くこともできなくなってしまったのだ。「しばらく働くのは辞めよう。」そうしてGBに通い詰め、癒やしの日々を過ごしていたが、あるとき、そんな私に転機が訪れた。

「ねぇ、張さん。子供にのりよしって名前を付けるのが流行っているんだって。知ってる？」

 とあるGBで、その子は言った。マチだった。当時マチは、GBに潜入してのりよし増殖事件の捜査をしていたのである。

「のりよし？芸能人やスポーツ選手で活躍した人がいたのか？」

「知らないならいいわ。そんなことより、今日友達がさあ・・・」

マチは、私がのりよしに付いて知らないとわかるやいなや、いつものとりとめのない話に戻った。彼女が楽しそうに話しているのを見ることが私の癒やしであったのだが、その時は「のりよし」という名前が気にかかってそれどころではなくなってしまった。「ねぇ、私の話きいてるの？」と何度も言われてしまったことだけは覚えている。

　数日後、のりよしのことについて考え続けていた私の耳に、警視庁でのりよし増殖事件の捜査本部が設置されたという噂が入ってきた。それを聞いた私は、昔の<ruby>仕事<rt>パチンコ</rt></ruby>の「つて」を使い、のりよし増殖事件捜査本部の捜査員となった。捜査員にマチがいたことに最初は驚いたが、逆に馴染みがいるというのはやりやすかった。のりよし増殖事件について捜査を進めていくと、とある新興宗教団体に行きついた。その新興宗教では、教祖であるダーニーという人物が、神「のりよし」を信仰の対象とする教えを説いており、ダーニーは、神の名前「のりよし」を子供に付けるように教えているというのだ。

「悪かったよ、マチ。つい焦ってしまった。」

「わかればいいのよ。・・それにしても、子供の名前に神の名前を付けるように教える宗教だなんておかしいわ。普通であれば信仰の対象の名前を子供に付けるなんて『不敬』にあたるじゃない？」

その通りだと思った。私にはダーニーが別の目的を持っているようにしか思えなかった。私はそれを突き止めたい、そのために地道な捜査を進めているのだ。

「まあ新興宗教というのは普通じゃないことで目立とうとすることもよくあるからな。それより、今日は有力な情報が手に入りそうなんだ。ヤッスという人から、ダーニーの話が聞けそうだ。」

「やったじゃない！でも簡単に信じていいのかしら？」

「おや、ちょうど連絡が来たようだ。」

パソコンで新着メールを確認しながら私は言う。

「どうやら、ヤッスさんによればダーニーは吉祥寺の御殿山によく出没するそうだ。」

御殿山、どこかで聞いた名だ。

「いいわね。ほかには？」

「そうだな・・、あとは、ダーニーが御殿山のとある雑居ビルに出入りしているという話もあるようだ。それと・・なんだこれは？筋肉はすべてを解決する？ヤッスさんからの暗号かなにかだろうか？」

「筋肉はさておき、雑居ビル！？それよ！！あのビルの３階に違いないわ！」

私は思い出した。吉祥寺御殿山のとある雑居ビルの３階、そこにK社がかつて存在したということを。K社とはダーニーが勤めている会社、そして私が会社員時代に勤めていた会社でもある。なるほど、私が勤めた頃は既に御殿山のオフィスではなかったのだから気づくのが遅れたわけだ。

「・・・そこを当たってみるのが良さそうだな。」

「張、気をつけてね。何か嫌な予感がするわ。」

私は心配そうなマチに大丈夫だよと返し、すぐに支度をして御殿山のビルの調査に向かった。

つづく

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[のりよし Advent Calendar 2017 8日目より](https://adventar.org/calendars/2192#list-2017-12-08)